◎就業規則の不利益変更
1.労働条件の不利益変更について
一般的に、契約は当事者の合意によって成り立っているものですから、その内容を変更する場合、両者の合意が必要なことは当然のこと。
相手に有利なように変更する場合はともかく、相手に不利になるような変更を一方的に通告しても(あらかじめ一方的に変更することができる旨の特約でも結んでない限り)何ら変更の効力は生じません。
労働契約の内容についても、会社が一方的に賃金の減額変更を通告しても、個々の労働者の同意がない限り、減額変更は効力を生じません。
したがって、賃金、退職金、その他の労働条件は、労働者に不利益な変更をしようとする場合には、変更の内容、理由、必要性につき十分に労働者に対して説明し、納得、同意を得た上で実施することが必要です。
経営の維持のためえに賃金を引き下げざるを得ないのであれば、一方的に通告すのでなく、そうせざるを得ない事情を労働者に十分説明し、同意を得て実施すれば、何も労働条件の不利益変更の法的な効力を検討する必要はなく、労働者に不利益な変更であっても、特に問題なく実施することができます。
法的な意味のある合意の形
@労働協約による合意
A個別の労働者との合意
ということになります。(時間外協定や賃金控除協定の当事者として労働基準法に規定されている労働者の過半数を代表する者との協定は、その代表者が各労働者から労働条件の変更に関する明確な委任を受けない限り、法的な効果は生じません)
@労働協約による変更は、不利益変更といっても、労働協約による場合には、一方的変更とはいえません。
労働者の団体である労働組合が合意して調印したわけですから、その労働協約の適用を受ける労働者には、不利益変更であってもその効力が及びます。
問題は、その労働協約の適用が及ばない労働者や少数組合等組合の組合員については、その労働協約の適用が及ばない以上、その労働協約によっては、不利益変更の効力は及ばないことになります。
そのような労働協約の適用が及ばない労働者や、労働組合のない企業の労働者の場合は、原則として労働者の個別の合意がない限り、一方的な不利益変更は効力を生じません。
基本的には、労働協約の締結、個別同意というものがない限り、労働者に不利益な変更を一方的に実施することができないというのが原則です。
2.就業規則の不利益変更
労働協約の締結あるいは個別同意がない場合に、就業規則の変更によって労働条件の不利益な変更が実施できるかということになります。(もっとも、労働協約は就業規則に優先しますから、有効な労働協約が存在している限り、これに反する就業規則の変更は無効です(労働基準法第92条)。
以下の説明は、、労働条件を定めた労働協約が存在しない場合、又は労働協約の適用を受けない労働者がいる場合についてのものです。
就業規則は、使用者に制定権がありますが、就業規則の改定によって労働条件っを一方的に労働者に不利益に変更することは、上記の考え方からすれば許されないことにんなりますが、実態的にみれば、労働条件というのは、必ずしも個々の労働者と個別に相談しながら決められているとは限りません。
労働条件について何から何まで個々の労働者と個別に契約していたのでは、それぞればらばらの労働条件になりかねず、企業は組織的な活動が困難になってしまいます。
就業規則の変更についても、個別の労働者の同意がなければ変更できないということでは、就業規則の変更は不可能となり、柔軟な企業活動ができなくなってしまいます。
したがって、就業規則の変更は、たとえその内容が労働者にとって不利益なものであっても、その変更が合理的なものである場合には、個々の労働者の同意なしに実施することができる、という見解が有力です。
(秋北バス事件 昭和43.12.25 最高裁判決)
新たな就業規則の作成又は変更によって、既得権を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと課すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきである。
どのような変更が合理的なものであるかについて、次のような状況を総合的に考慮して判断することとされています。
・就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
・使用者側の変更の必要性の内容・程度
・変更後の就業規則の内容自体の相当性
・代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
・労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合または他の従業員の対応
・同種事項に関するわが国社会における一般的状況